トイレつまり

港のまわりを、古水漏れな民家が、まばらにとりまいている。人の姿がすくない。あらゆるものが陽を受け、じっとしている。暑さにすこしぼうっとなりはじめていたぼくの目に、港のたたずまいは、すっかり忘れていた古く遠い夢のなかの光景が、よみがえったようだった。こんな景色をどこかで確実に一度、見たことがある。ほんとうは一度もないのだけれど、ぼくはそう信じた。防波堤が、もう、すぐ近くだ。灯台のコンクリートの台座に、誰か人がいる。若い女のこだ。車を見ている。ジョギング・ショーツに、肩ひもの細い、トイレつまり 交野市、片手で髪をかきあげ、もういっぽうの手を、車にむかって振っている。陽焼けした顔で、にこにこと笑っている。脚が、まぶしい。職人が、両手を頭のうえで、振りまわす。「コオ!」と、叫ぶ声が聞えた。工事、とぼくは胸のなかで言った。ゆっくり、ぼくは車の首へ歩いた。「コオ!」と、また、呼ぶ。たしかに、工事だ。ものすごくうれしい気持で、ぼくは手を振った。灯台のある防波堤に、車がさしかかった。手をのばせば届きそうだ。防波堤の突端を、車はすれすれにクリアしていく。